第5章 岩に残された鬼の約束
2025年12月17日
岩手という地名は、岩に残された鬼の手形に由来すると伝えられている。
昔、岩手山のあたりには、人々を苦しめる「羅刹」という鬼が棲んでいたという。村人たちは困り果て、三ツ石神社の神に救いを求めた。神は鬼を捕らえ、「二度と人に害をなさない」と誓わせる。その証として、鬼は大きな岩に自らの手形を押し、姿を消した。岩(いわ)に手(て)の形が残ったことから、この地は「岩手(いわて)」と呼ばれるようになった。
現在の盛岡市にある三ツ石神社には、この伝説に由来する三つの大岩が祀られ、県名の象徴的な場所として今も人々の信仰を集めている。
盛岡市内に入ったこむぎは、三ツ石神社の前で愛車KLX450を止めた。静かな境内には、風に揺れる杉の枝と、遠くから聞こえる車の音だけが混ざっていた。石段を一歩ずつ上るたびに、心が少しずつ落ち着いていく。ここは、かつて「鬼の手形伝説」に登場した大岩が祀られている場所として知られている。鳥居をくぐると、杉の香りと土の匂いが混ざり合い、時がゆっくりと流れるように感じられた。
神社に立つ三つの大岩は、いずれも堂々とした姿で存在していたが、岩肌には鬼の手形らしき跡はどこにも見えない。伝説によれば羅刹がここに手を押したというが、目に見える痕跡はないのだ。それでも、かつての人々が抱いた恐れや祈りや、鬼との約束の重みは、目には見えないながらも確かにそこに漂っているように感じられた。
こむぎは息を飲み、岩の前で静かに手を合わせる。伝承は目に見えない形で人々の心に残り、時代を超えて守られてきた。岩手の鬼たちの存在は、恐怖ではなく、守りや秩序の象徴として今日も静かに語られているのだ。
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