第8章 現存しない星の瞬き

2025年11月22日

その夜、こむぎは八幡平のキャンプ場にテントを張った。
夏休みにはまだ早く、敷地内に人影はほとんどない。
風の音と、遠くで鳴く虫の声だけが、広い空間に溶けていた。


テントの前に寝転がり、こむぎは空を見上げた。
視界いっぱいに広がる、満天の星空。

「星は地球から何億光年も離れている……」

呟くように言葉がこぼれる。

今、目に映っている星々の中には、すでに消滅してしまったものもあるはずだ。

それでも光だけは旅を続け、こうして"今"に届いている。

時間とは、いったい何なのだろう。

「南部鉄の歴史は、江戸時代初期――17世紀に始まったって言われている」

こむぎは胸元に手を当てた。

「でも、こむぎの持っているこの金属は……縄文時代の反応を示している。

どうしてだろう……」

思考が、ひとつの点に収束する。

――ハッとした。

「もしかして……緋緋色金は、時空を超えることができるんじゃないか?」

想像が連なっていく。

縄文の地層で生まれた鉱石が、時を越えて江戸時代へと落ちる。

鍛冶職人の手によって"金属"として鍛えられ、名を与えられた緋緋色金。

そして再び、縄文の時代へと還っていく――。

時間の流れに逆らうのではなく、循環するように。

こむぎの胸元で、緋緋色金が静かに赤く輝き続けた。


まるで――「それが正解だ」と応えるかのように。

その光を見つめながら、こむぎは理解した。

「目に見えているものが、現存するとは限らないのかも知れないな」

物語は、すでに最終章へ向かって動き出している。

静かに、しかし確実に。

そして、その気配を感じ取ったのは――

こむぎだけではなかった。


👇【第9章に進む】

Share
無料でホームページを作成しよう! このサイトはWebnodeで作成されました。 あなたも無料で自分で作成してみませんか? さあ、はじめよう